2016/06/19

月という遊女



昔、近江の国に美しい遊女がいました。名を月と言いました。
ある秋の夜ふけ、この世と思えぬ美しい男が水干に身をつつみ
立っていました。二人は惹かれ愛し合うように。同じ頃、琵琶湖
のほとりの楠の老木を切って舟を作ろうと話が出ていました。
その晩、男は泣く泣く自分が楠の精であること。まもなく死ぬこと。
月に男の子が宿っていることを伝えます。そして
舟は完成しても動かないが月が舟に乗り扇で招けば動く。男の子
を国の守の子にしてくれたら舟を自由に往来させると言いなさいと
言い残しました。男の子は立派に成長し、類ない武士となり
近江の守護になったということです。
笛の音が聞こえてきそうな、そんなお話です。